access_time2017年4月25日 更新

生前贈与の基礎控除には怖~い落とし穴がある!?

生前贈与の基礎控除には怖~い落とし穴がある!?

日本の「相続税」という税目は、「贈与税」と深い関係があります。

この2つは法体系として一体にして運用する必要があるため「相続税法」という法律で一括管理されていますが、これはどうしてだと思いますか?

「贈与」という行為は生前に財産を子や孫などに譲ることができるので、これを上手く活用すれば自分が死亡した時には財産が残っていない状態にすることも不可能ではありません。つまり、遺産に課税される相続税の回避策として相当有効だということです。

実際、現場のFPや税理士などはいくつかある相続税対策の中でもクライアントが理解しやすい生前贈与を中心に勧めることが多く、非常に有効な手段として活用されています。

一方で、税収確保を目的とする国側は立場が逆ですので、できるだけ相続税逃れを抑止しようと躍起です。そして、可能な限りのあらゆる理論構成や手段を用いて徴税してきます。そのため、一般の方が単純に考えるような対策では思わぬ落とし穴にはまって高額課税されてしまうケースがあるので注意が必要です。

今回は生前贈与の仕組みを表面的にしか理解せず、相続税対策としての生前贈与に失敗してしまったAさんの事例を見ながら正しい対策法を学んでいきます。

生前贈与の基本的な仕組み

生前贈与は相続時に課税対象になる財産をできるだけ減らすことで相続税の負担を減らすことを目的にします。贈与という契約行為をもって行うことになりますが、贈与にも贈与税という税目が用意されており、相続税よりも高い税率になるため本来ならば不利になるものです。

しかし、贈与行為には「基礎控除」という枠が用意されており、この額までの贈与であれば贈与税がかからない仕組みになっています。基礎控除は年間110万円までとなっており、この範囲であれば贈与税の心配はありません。年間110万円までですから、数年かけて贈与を繰り返せばかなりの額を生前に子や孫に移すことができます。

しかも基礎控除は財産の贈与を受ける側一人一人でカウントするので、子や孫が複数人いれば、雪だるま式に財産移転額を増やすことができます。例えば、子が2人、孫も2人の場合、年間440万円も財産を移譲することができるのです。特に孫は世代飛ばし効果(相続の機会を一世代飛ばし課税機会を減らす)があるので相続税対策として非常に有効です。

ただし、これを額面上にしか理解しないでいると思わぬ落とし穴にはまってしまう危険があることを知っておかなければなりません。

専門家への相談を怠り、素人的対策をしてしまったことで悲しい結果になってしまったAさんの事例を次の項で見てみましょう。

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素人対策で落とし穴にはまったAさんの事例

贈与税の基礎控除のことを知ったAさんは「よし、この基礎控除枠を使って俺も早めに生前贈与しておこう。せっかく築いてきた財産を税金で持っていかれてたまるか!」と意気込みました。

Aさんには孫がおらず子が1人しかいませんでしたが、まだ60代でしたので早めに生前贈与を始めることで年間110万円までの基礎控除枠を有効に利用できる立場にありました。

そこで毎年100万円ずつ、10年かけて1000万円を子に贈与して、相続が起きた時の財産を減らして相続税負担を軽減しようとしたのです。そして「後で税務署にイチャモンを付けられても嫌だから、証拠が残るように契約書も作っておこう」と、「10年間にわたり、毎年金100万円を贈与する」旨の贈与契約を子と結び書面化しました。

これを探知した税務署は「これは定期贈与にあたるので基礎控除は一回分しか利用できません。基礎控除枠を引いた残りの890万円は贈与税の課税対象になります」とAさんに通知しました。

この通知を受け取ったAさんは大慌てで近所の税理士事務所に駆け込みました。税理士の先生に相談したところ、「残念ですが税務署の判断を覆すことはできないでしょう」と言われてしまい、Aさんはさらに落ち込んでしまいました。

一体何がいけなかったのでしょうか?

キーポイントは「定期贈与」という言葉にありました。

定期贈与とは?

Aさんがした契約は「10年間、毎年100万円ずつ贈与する」というものですが、その内容は結局「最終的に1000万円贈与する」という意思表示に他なりません。

税務署側から見ると明らかな相続税逃れに映り、「最初から1000万円というまとまった金額を贈与する意思がある」として贈与の小分けを認めてくれないのです。

少し難しい言葉でいうと、小分けにした100万円を10年という定期で譲る行為を「定期金に関する権利」として一本化し、これ全体(1回分の基礎控除は使えます)に贈与税を課す、ということになります。

税務署の立場から見ると、贈与税の基礎控除はその年に偶然発生した軽微な贈与行為について合わせて110万円まで認めるのであって、これを超える額の贈与が最初から決まっているのであれば基礎控除は全体に対して一回しか認める必要がない、ということです。

ではAさんは一体どうしたら良かったのでしょうか?契約書を作らなければよかったのでしょうか?

確かにこのケースではAさんは定期金に関する権利として自分に不利な証拠が残る契約書を作ってしまいました。しかし、契約書を作ること自体が悪かったわけではないのです。

Aさんはどうすれば良かったのか見ていきましょう。

Aさんはどうすれば良かったのか?

生前贈与は贈与する財産の金額の調整と証拠の残し方を工夫しないとAさんのような目に合ってしまうことがあるので注意が必要です。

まず、「その年内に発生した偶発的な贈与」を演出するために、毎年贈与契約を作成します。契約作成の年月日も毎年同じではなく期日をずらすようにしましょう。贈与の金額は毎年同じではなく、異なる金額にし、実際に動くお金の動きの証拠も残す必要があります。

誰から誰に対してなされた贈与なのかの証拠を残すために金融機関の振込を利用して、通帳で金額と名前が分かるようにしておきましょう。

ただし、その際注意が必要なのが「名義預金」です。

これは例え子や孫などの名前で通帳が作られていても、その通帳の管理を親などの贈与者が管理していたり、子や孫がその口座の存在を知らない場合は実質は贈与者の財産であるとして、相続時に相続税の課税対象にされることがあります。

これでは相続税対策として失敗ですね。

成人した者には通帳を預け、名実共に管理を任せる必要があります。

契約書によって両者の意思を明確にし、合意があったことを書面にして証拠として残すこと、そして実際のお金の流れに目印を付けることで、そのお金が契約によってなされた合意に基づき移転したものだということを証明することができます。

生前贈与の安全性をさらに高めるために

上記のように毎年の贈与額を変えたり契約書などの証拠を残すことで定期贈与とみなされる危険はだいぶ減りますが、さらに万全を期するならば贈与するトータルの額にも気を配ります。

贈与するトータルの額がきっちり500万円、あるいは1000万円などになると「結局は最終的にこの額を贈与するのが目的だったんじゃないの?」などと税務署に突っ込まれる材料になるので、トータル額が409万円、946万円などランダムな数列になるように配慮してみましょう。

さらに何年かに一度はあえて110万円を超える贈与を行い、少額の贈与税を申告するように勧める税理士やFPもいます。

これはあえて申告納税を行うことで贈与の証拠を残す効果の他に、納税の実績を作ることで税務署の徴税意欲を下手に刺激しないようにする作用もあります。

いくらかの金銭的ダメージがあるので躊躇されますが、資産家や普段から所得税などで税務署から注視されているなどリスクの高い人は一考の余地があります。

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まとめ

日本の税制度は世界の中でも複雑で分かりにくいと言われていますが、これは返せばできるだけ公平な税負担を国民に求めるためにどんどんルールを細かくせざるを得ないという事情もあります。

国(国税庁など実務機関)は制度そのものはHPや広報などで公表しているものの、ご覧になれば分かるとおり一般の人には理解しづらく、とっつきにくい印象を持たれてしまいます。

表向きには国民に向けて情報を開示していても、実際の運用の場面では一般の人が想定しにくいような理論構成で徴税の手を向けてくることもあります。

私たちに利益がある贈与税の基礎控除一つをとっても、言葉通りに受け取ったために痛い目を見てしまった今回のAさんのような事例もたくさんあるのです。

ですから皆さんが注意すべきことは、国が公開している税制度についてはそのまま鵜呑みにせず、「実際のところはどうなのか」「何かデメリットもあるのではないか」と勘繰って注意深く調べてみることです。

そして実際に実行する前には必ず税理士やFPなどの専門家に相談する意識を持つようにしましょう。

今回題材に上げた生前贈与の基礎控除枠は上手く使えば誰にでも大きなメリットをもたらすことができるものですから、専門家の助言の元で上手に利用したいものです。



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